起訴状

公訴事実

「被告人は、平成27年4月12日執行の静岡市長選挙に際し、同選挙に立候補する決意を有していた高田都子の選挙運動者であるが、前記高田都子の兄であるとともに政治団体『元気で明るい静岡をつくる会』の代表者である高田隆右及び前記高田都子の選挙運動者であるとともに同団体の会計責任者である田村幸洋と共謀の上、前期高田都子に当選を得させる目的をもって、いまだ立候補届出のない同年3月上旬から同月12日までの間、静岡市駿河区中吉田41番15号の同団体事務所等において、宮澤圭輔を介するなどして、前期高田都子の選挙運動者である静岡プロフィットサービス株式会社代表取締役井上有樹に対し、同年3月13日から告示日前日の同月28日までの間に同社の被用者をして前記高田都子に当選を得させるため街頭で通行人に「高田とも子市長選出馬」「高田とも子さんが当選すれば、史上初の女性静岡市長誕生」等と記されたビラを配りながら「高田とも子です。よろしくお願いします。」と呼び掛けるなど同人への投票の呼び掛け等の選挙運動を依頼し、その報酬として同団体から同社に現金540万4968円を支払う旨の意思表示をし、もって選挙運動者に対し、特殊の直接利害関係を利用して誘導するとともに、立候補届出前の選挙運動をしたものである。」

罪名及び罰条

公職選挙法違反  同法第221条第1項第2号、第239条第1項第1号
         第129条、刑法第60条

斎藤まさしさんの陳述書

【斎藤まさしさんの陳述書】

             被告事件に対する陳述書  

                         平成27年7月31日
静岡地方裁判所刑事1部 御中

               斎 藤  ま さ し 
          こと酒 井  剛

 私の保釈決定に対して取り消しを求める準抗告を行なったことに示される検察官の強い反対にもかかわらず、裁判所が、その独立性に基づき準抗告を却下されたことに敬意を表するとともに、こうして素晴らしい弁護団の援助と協力を得て不当な起訴と戦うための事実・証拠の調査及び裁判準備のための時間と自由を与えて下さったことに深く感謝します。
 もし、検察官が強く要求したように私が勾留されたままこの公判を迎えていれば、多くの事実を知ることができず、事実と法に基づく公正な裁判を受けることなど全く不可能になったと思います。

 「公訴事実」では、概要、私が「高田隆右及び田村幸洋と共謀して、宮澤圭輔を介して、静岡プロフィットサービス株式会社代表取締役井上有樹に対し、3月13日から告示日前日の同月28日までの間に同社の被用者をして高田都子に当選を得させるため街頭で通行人に「高田とも子市長選出馬」「高田とも子さんが当選すれば、史上初の女性静岡市長誕生」等と記されたビラを配りながら「高田とも子です。よろしくお願いします。」と呼び掛けるなど同人への投票の呼び掛け等の選挙運動を依頼し、その報酬として同団体から同社に現金540万4968円を支払う旨の意思表示をし、もって選挙運動者に対し、特殊の直接利害関係を利用して誘導するとともに、立候補届出前の選挙運動をした』とされていますが、「立候補届け出前の選挙運動をした」という事実はありません。

 この起訴は、事実をネジ曲げムリヤリ罪をつくろうとするもので、前例のない、司法の使命に背く不当な暴挙であり、強い憤りを感じます。
公職選挙法違反容疑で警告を受けすぐに中止したことを、長時間たってから立件・起訴した例は、私たちが調査した限り、いまだかって一度もありません。
 これでは、犯罪の発生を制止するという警告の意味がなくなってしまいます。
 これまでは、「警告に直ぐに従えばお咎めなし」が選挙違反捜査のルールだったはずです。警察庁刑事局長も国会で、「警告すると、直ちにそれに従うものも多いが、中には繰り返して警告を行う必要がある場合も少なからずあるので、その場合には検挙することとしている。」と答弁しています(昭和50年11月19日、衆・公職選挙法改正に関する調査特別委員会)。
 ところが今回は、このようなルール違反が実際に行われました。

 これは私が逮捕された後に取り調べの警察官から聞いて初めて知り、保釈後に確認できたことですが、3月13日のビラ配りをしていた業者に中央署から警告があり、業者は即刻ビラ配りを中止したそうです。
 また、初めてビラ配りをした13日当日の午前中には中吉田事務所に清水警察署からビラ配りに対して警告があり、翌日、私と水上事務局長がその内容を確認するため録音機を用意して清水警察署に出向きました。
 その中で、対応した清水警察署捜査二課の江場さんという警察官は「何が事前運動にあたる可能性があるのか具体的に指摘してください」という私の質問に対して「ビラが違反だというわけではない」「総合的判断だ」などというだけで、「高田とも子です。よろしくお願いします。」という言葉には一切ふれませんでした。5月9日付け毎日新聞でも、同新聞の記者が静岡市選挙管理委員会に取材した際、市選管の報告に対し、県警は「ビラ自体は問題ない」と回答した旨が報じられています。
 更に3月20日には、13日にビラ配りをしていた人たちを長時間拘束した理由の説明を求めて、弁護士さんに同行してもらって中央署に三人で行きましたが、対応した県警捜査二課の高橋監理官もまた何が問題にされているのか具体的説明をせず、「高田とも子です。よろしくお願いします。」という文言についても全く言及しませんでした。
 警告を発するに当たっては、その対象となる具体的事実・内容について説明するのは警察官の義務です。なぜなら、それがわからなければ改善・変更 ・中止などの対応をして選挙違反を防ぐことが難しいからです。

 こうした事実から、警察がビラ配りを止めさせようとしたことは確実ですが、それだけなら具体的事実の指摘や説明をしなかったことは理解できません。
考えられるのは、その時点で違反の認定ができなかったか、同様の行為を繰り返させて検挙しようとしたか、あるいはその両方かしかありません。

 私は清水警察署で江場さんに「活動に協力してくれている人たちに説明し、選挙違反をしないよう対応しなければならないので、何が事前運動にあたる恐れがあるのか具体的に指摘してください。できれば文書でもらえませんか。」と言って帰りましたが、その日のうちに江場さんから水上さんに電話があり「文書での警告はしない。これは県警の指示であり、口頭での警告だ。質問や反論は受けつけない。」旨告げられて、一方的に電話を切られたと聞きました。
私たちは、警察のこの対応に極めて不満でしたが、政治活動を継続するために、やむなくその夜ビラ配りの中止を決めました。
 こうした事実経過があるにもかかわらず、二ヶ月近く経ってから宮沢さん達は逮捕されてしまったのです。

 私は約35年間、全国各地で様々な選挙にボランティアとして参加し、直接関わったものだけでゆうに4桁の数に達し、また関心を持ってたくさんの選挙を見てきましたが、私の知る限り、選挙期間外のビラ配りだけで日当買収や利害誘導に問われた例はありません。
 
 全国で日常的に、選挙に出ようとする人やその人を応援する政党や団体が政治活動として選挙期間外にビラ配りをしており、多くの場合アルバイトが従事しています。その際、誰に関するビラなのかを示すためにビラに掲載されている主要人物の個人名を言ったり、ビラの受取やビラを読むことを促す意味で「お願いします。」などと声掛けしながら配るのが普通です。
 投票依頼の文言の入ったビラが事前運動とされたり、選挙告示の前後を通じてアルバイトにビラ配りさせて運動員買収に問われた例は多くありますが、ビラ配りの「よろしくお願いします。」の声掛けが事前運動に問われたり、業者に選挙告示前の政治活動用のビラ配りを頼んだことだけで利害誘導罪に問われたということは見たことも聞いたこともありません。
 それぐらい、今回の捜査・立件・起訴は異常なのです。

 なお、私は、選挙告示前の政治活動において「投票依頼と受け取られかねない文言は使わないように」と会議で提案したことは何度もありましたが、「投票の呼びかけ等の選挙運動」など提案したり依頼したりしたことは絶対にありません。

 また、ビラを配りながら「高田とも子です。よろしくお願いします。」と呼びかけることが投票依頼でないことは先ほども説明した通りですが、私が、そのように呼び掛けるよう会議で提案したことはありませんし、高田隆右さんや田村幸宏さんと話したこともありません。宮沢圭輔さんに対しても、そういう依頼をしたり指示したりした事実はありません。
 そもそも、全員が同じ言葉を発しながらビラを配ったり、呼びかけたりすること自体が私のこれまでのやり方に反します。ですから,今回も,一律に同じ言葉での呼びかけを決めたことなどなかったのです。
 私は、ビラ配りにおいても、一人でも多くの人に受け取ってもらえるよう、いつもアドリブで、一人ひとりの反応に応じて自分の個性を活かして活動するようにしてきましたし、そうするようにアドバイスしてきました。
そうしないと、短期間に人は育たないし様々な活動の効果はあがらないからです。

 以上に加えて、今回の起訴は、次の点でも異常です。すなわち、起訴状の「公訴事実」についての求釈明の結果、公訴事実には明示されていないものの,「呼びかけを伴わないビラの配布行為であっても事前運動である」と言うではありませんか。
 3月13日のビラ配りで配布された私が作ったビラは、政治団体『元気で明るい静岡をつくる会』のニュースであり、憲法によって保障された表現の自由に基づき、公職選挙法148条によって認められた選挙報道・評論の自由に則って、虚偽事項や歪曲なく事実のみ記載しており、投票依頼の文言はないので,選挙告示の前であればその配布は全く自由で制限はなく、法に違反するものではないことは明白です。

  つまり今回の事件は、警告制度の意義を台無しにし、前例のない選挙告示前のビラ配りそのものを事前運動罪として立件してまで、宮澤さん、井上さんらを逮捕し、関係者の公職選挙法の不慣れに付け込んで彼らを恐怖に陥れて供述を誘導し、もって利害誘導罪の共謀をムリヤリつくりあげようと企図するものです。これは、これまでの選挙違反捜査のあり方を根底から覆すものであり、政治活動の自由を全面的に奪ってしまうことになるものです。

 しかし、このビラ配りが「選挙運動」に該当しなければ、事前運動はもとより日当買収も利害誘導も成り立ちえません。

 以上の通り、私が共謀して事前運動や利害誘導など公職選挙法に違反する行為を行った事実はありません。

 

 裁判官のみなさんが、選挙とその違反取り締まりの現状をよく把握され、今後の日本の選挙及び民主主義に大きな影響をもたらすにちがいないこの裁判で、事実と法に基づき将来に禍根を残すことのない公正な判例を残されるよう、切に願うものです。」

第6回公判経過報告(1/27追加)
 1月20日、静岡市長選挙をめぐる公職選挙法違反事件の斎藤まさしさんの第6回公判が、静岡地方裁判所で開かれました。
 
 公判では、チラシ配布業者の静岡プロフィットサービス株式会社代表井上有樹氏と、その業者に仕事を依頼した宮澤圭輔前静岡市議の2人(検察側証人)への証人尋問が行われました。
 
 公判の争点の一つとなっているチラシ配りの際の「高田とも子です。よろしくお願いします」の声かけ文言については、井上氏が通常の営業用チラシ配布と同様の文言として宮澤氏に提案し、宮澤氏が了承したという事実が確認されました。他方、その文言を使うことに斎藤まさしさんの関与があったということは立証されませんでした。
 また、街頭での声かけについて、選対の主要メンバーである高田隆右氏や田村幸洋氏と斎藤まさしさんが「共謀」したと検察官が主張する事実も、まったく立証されませんでした。この点に関しては、宮澤氏が「この声かけについては違法とは全く考えていない」と強調していたことも、とても印象に残りました。
 
 また、チラシ配りに対する「警告」があった後すぐに配布を中止したにもかかわらず2か月近く経ってから逮捕された問題について、警告に従ったにもかかわらず立件・起訴した例がこれまでにあるのかどうか、裁判所からの警察に対する公務所照会を弁護側から求めていましたが、裁判所がそれを行う旨の判断がなされました。この結果は大変注目されます。
 
 その他にも、弁護人側から、これからの争点についていくつも問題提起がなされた公判でした。
 
 今回までで検察側請求の証人尋問は終了し、次回からは弁護人側請求の証人尋問が始まります。この事件が警察・検察による不当な選挙干渉であったことが、ますます明らかになっていきます。
 
⚫1/20公判後の報告会の様子です。
 
記者会見ツイキャス中継 (@chukei0731)
(https://twitter.com/chukei0731/status/689727128342921216?s=03
 
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第8回公判(2016年2月3日)報告 (2月4日追加)

 2月3日節分の日に、斎藤まさしさんを被告人とする静岡市長選挙公職選挙法違反事件の第8回公判が、静岡地方裁判所で行われました。この第8回公判は、奇しくも、これまでは検察側請求の証人尋問であったのが弁護人側請求の証人尋問への「季節」に変わった日の公判となりました。

 この日の公判で行われたことは、①弁護人側冒頭陳述の補充、②静岡中央警察署の「警告」に関する求釈明、③弁護人から追加の証拠調べ請求、④A証人に対する尋問、⑤M証人に対する尋問、⑥被告人である斎藤まさしさんへの質問です。

 先ず、公判の冒頭、弁護人から、冒頭陳述(裁判における弁護人側の主張)の補充が行われました。補充のポイントは、本件事件が「適用違憲」に当てはまる事件であるとする主張です。本件事件に対する「適用違憲」の主張は、「斎藤まさしさんの逮捕起訴が公職選挙法の目的を達成するために有効でも必要最小限でもないこと、及び公職選挙法の保護すべき公益に比して斎藤さんの政治活動の自由の制約があまりに大きく、憲法第21条第1項に違反する」というものです。

 この「適用違憲」の主張の中では、警察が、街頭ビラ配りでの呼掛けの言葉として「高田とも子をよろしくお願いします。」を使っていたという虚偽の事実を記載した供述調書や捜査報告書を組織的に作成し、捜査を開始していったことを厳しく指摘しています。

 この冒頭陳述に関連して、弁護人から「検察官の冒頭陳述の中で『あった』と主張されている静岡中央警察署の『警告』が、いつ、どこで、誰が、誰に対して、どのような内容でなされたのかを明らかにされたい」との求釈明がされました。本来あるべき形の『警告』がなされていない疑いがあるのです。

 次に、A証人に対する尋問が行われました。弁護側請求の証人としてトップ・バッターとなったA証人は、斎藤まさしさんとは、2001年に堂本暁子知事を誕生させた千葉県知事選挙以来の交流があり、今回の静岡市長選挙でも、斎藤さんに頼まれてボランティアで高田とも子陣営のお手伝いをしていた人です。

 A証人の供述は、裁判の流れを変えるものでした。検察側が主張していた事実を詳細な具体的事実を挙げることで反証することとなったのです。その中には、①選対会議では、問題となった街頭ビラ配りの呼掛けの言葉「高田とも子です。よろしくお願いします。」が話題にもならなかったこと、②市長選出馬ビラ(「市長選出馬」と大きく書かれたビラ)の新聞折込について、選対会議では、折込業者が拒否をしたのではなく、一部変更することで承諾したこと等が明らかとなりました。また、A証人は、6月の警察署における取調べの中で、取調べの担当警察官が「本件街頭ビラ配りについては、大金が動いているという情報が事前に入っていたので、ビラ配りの場所で張り込んでいた」と言っていたことも明らかにしています。

 次いで登場したM証人は、高田とも子選対本部の事務局長を務めていた人です。弁護人側が証人請求したのに対し、検察側も証人請求(双方申請)してきた証人です。全体の事実関係を一番よく知っている人なのですが、証人尋問において3人の裁判官が最も関心を持って裁判官尋問をしていたのは、街頭呼掛けの言葉についての「共謀」の有無に関してです。

 裁判官は、「被告人が『名前を挙げて直接投票を依頼するのはNG』ということをいつ言っていたのか。」、「3月9日の選対会議では、市長選出馬ビラを回し読みした後、宮澤さんは何か言っていたか。」、「『NG』ということを、どういう機会に聞いたか覚えているか」、「3月9日の選対会議には、Aさんは出席していたか。その選対会議には誰が出席していたのか。」などと尋問をしていました。

 その後、斎藤まさしさんに対する被告人質問が行われました。本日の公判では、弁護人からの質問だけでしたが、「過去30数年にわたって選挙に関わってきたが、これまで選挙に関して逮捕・起訴されたことは1度もないこと」、「今回事件と同様の内容のチラシ(ビラ)を配ってきたが、チラシの内容で警告されたことは全くなかったこと」を供述すると共に、「今回問題となった街頭呼掛けの言葉については、選対会議を含めどんな機会でも宮澤・静岡市議(当時、今回事件では「利害誘導の周旋罪」で有罪となっています。)との間で協議、確認、指示がなかったこと」を供述しています。

 今後の公判に関しては、弁護人側からの請求を踏まえて、新たに、①高田陣営の街頭ビラ配りに遭遇した静岡選挙管理委員会職員、②斎藤まさしさんと30年以上にわたって選挙の応援活動をしていた市会議員 の2人の証人採用が決まりました(まだ裁判所で留保中の証人申請があります。)。

 次回公判は、2月10日9時45分から12時まで、被告人質問(検察官による質問もあります。)の残りと、静岡市選挙管理委員会職員に対する証人尋問の予定です(その次は、3月14日午後で調整中)。  (了)